門脈圧亢進症とPAH (PoPH)

Ⅰ.疾患定義

肝臓に血液を送る血管(門脈)の血圧が高くなる門脈圧亢進症によるPAHは、PoPHと呼ばれています

肝臓に栄養を送る血管(門脈)の血圧(門脈圧)が高くなる門脈圧亢進症という病気により、肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Arterial Hypertension:PAH)が引き起こされる病気を門脈肺高血圧症(Portopulmonary Hypertension:PoPH)と呼んでいます。

 

PoPHがどのようにして起こるのかまだよくわかっていませんが、門脈の血圧が高くなると、肺の血管(肺動脈)にも影響が及び肺動脈の血圧が高くなり、PHを引き起こし、PoPHになると考えられています(図)1)、2)。門脈圧亢進症の主な原因は肝硬変などの肝臓の病気です3)

1)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_fukuda_h.pdf(2020年6月閲覧)

2)矢尾板信裕ほか. 治療学. 2010;44:866-9.

3)元山宏行ほか. 消化器の臨床. 2018; 21: 152-8.

Ⅱ.疫学情報

他の病気が原因となって起こるPAHの中で、PoPHはPAH全体の6.9%を占めています1)

PAHに関する日本の研究の結果では、PAHの原因のうち「特発性(全く原因がわからない)PAH/遺伝性PAH」が最も高い割合(55.6%)を占めており、PoPHは6.9%を占めていました(図)1)

また、門脈圧亢進症患者さんの2~6%2~5)、肝硬変患者さんの1~2%2)の患者さんがPoPHになるとされています。PoPHは男性と比べて女性のほうがやや多いとされています2)

【調査方法】
厚生労働省科学研究費の補助を受け開始されたレジストリー。日本の8施設において2008年4月~2013年3月の間に登録されたPAH患者189例(未治療患者108例、治療患者81例)のデータを収集した。
患者の適格基準は以下のとおりであった。

・18歳以上
・診断時に右心カテーテル検査のデータがあるPAHと診断された患者(安静時mPAP≧25mmHgおよびmPAWP≦15mmHg)

2008年4月~2013年3月の間に右心カテーテル検査でPAHと診断された患者を未治療患者、本研究開始前に診断されていた患者を治療患者とした。

mPAP:平均肺動脈圧、mPAWP:平均肺動脈楔入圧

1)Tamura Y, et al. Circ J. 2018; 82: 275-82.より作図

2)Kawut SM, et al. Hepatology. 2008; 48: 196-203.

3)Krowka MJ, et al. Hepatology. 2006; 44: 1502-10.

4)Hadengue A, et al. Gastroenterology. 1991; 100: 520-8.

5)Colle IO, et al. Hepatology. 2003; 37: 401-9.

PoPH患者さんにみられる主な肝臓の病気は肝硬変です1)

日本におけるPoPH患者さんにみられる肝臓の病気を調べた結果では、肝硬変が最も高い割合を占めていました(図)1)

1)Sakuma M, et al. Circ J. 2005; 69: 1386-93.より作図

Ⅲ.主な症状

PoPHの主な症状は「労作時の息切れ」です1)

PAHは進行性の病気です。PoPHもPAHと同様に、より早期に発見し、より早期に治療を開始することが大切です。PoPHの主な症状は、家事や歩行など体を動かした時に息苦しくなる「労作時の息切れ」です1)。その他に、失神、胸痛、倦怠感(体がだるい)などがみられます(図)1)、2)

PoPHの原因となる門脈圧亢進症による症状は、倦怠感(体がだるい)、鼻や歯ぐきからの出血、貧血、足のむくみ、腹水(おなかに水がたまる)、微熱や腹痛などさまざまです3)。また、肝硬変による腹水が多くなると息苦しくなったり、お腹が張るなどの症状があらわれることがあります4)、5)

どんな時に息切れを感じるか、どのくらいの程度の息苦しさなのかなど、日頃から自分の体調や症状に気を付けておくと、PoPHの早期発見、または病気の進行を早い段階で見つけることができる可能性があります。

労作時の息切れやいつもとは異なる症状に気づいたら、早めに主治医に相談しましょう。

1)循環器診療 ザ・ベーシック肺高血圧症(編集主幹 筒井裕之)、メジカルビュー社、2018; P54-9.より作成

2)田村雄一. 日内会誌. 2018; 107: 195-201.より作成

3)元山宏行ほか. 消化器の臨床. 2018; 21: 152-8.

4)Wittmer VL, et al. Arq Gastroenterol. 2020; 57: 64-8.

5)日本消化器病学会ガイドライン 患者さんとご家族のためのガイド 肝硬変
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/kankouhen_3.html(2020年6月閲覧)

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Ⅳ.診療科と検査

PoPHの主な診療科は、
肝臓内科と循環器内科です

門脈圧亢進症は主に肝臓内科で診療されていますが、PAHは主に循環器内科で診療されています。多くの場合、PoPHの診療は両方の診療科が連携して行われます。

PoPHの主な検査は心エコー検査、胸部X線検査、心電図検査、血液検査など1)ですが、これらの検査をどちらの診療科が行うかは病院によって異なります。しかし、PoPHであることを確実に診断(確定診断)するためには、循環器内科で右心カテーテル検査を行う必要があります1)、2)

1)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_fukuda_h.pdf(2020年6月閲覧)

2)循環器診療 ザ・ベーシック肺高血圧症(編集主幹 筒井裕之)、メジカルビュー社、2018; P54-9.

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検査

Ⅴ.治療

PoPHは、PAHの治療に使用するお薬を用いて治療します1)

PoPHは、治療を行わなければ命にかかわる病気です。現在、PoPHはPAHの治療に使用するお薬を用いて治療します。PAHの治療では、狭くなった肺の血管を拡げるお薬を使用します1)

PAH治療薬が使用できるようになり、治療後のPoPH患者さんの経過はこれまでに比べて改善がみられたとする報告があります1)。しかし、まだPoPH患者さんへのPAH治療薬の使用は多くはないため慎重に行われています1)

PoPH患者さんの治療には肝臓移植がありますが、PH/PAHの治療の目的では推奨されていません。肝臓移植は、患者さんの肝臓の病気の重症度によって、適切な治療と判断された場合に実施が検討されます1)

1)日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_fukuda_h.pdf(2020年6月閲覧)

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治療

Ⅵ.基礎疾患について

門脈圧亢進症はPoPHを引き起こすことがある病気であり、肝硬変は門脈圧亢進症の主な原因となる病気です

門脈圧亢進症は、肝臓に栄養を運ぶ血管である門脈の高血圧症です。
門脈圧亢進症の原因となる病気の約80%は肝硬変によるものですが、特発性(全く原因がわからない)門脈圧亢進症など原因がいまだに解明されていない病気も多いとされています1)

肝臓の細胞が壊れて硬くなった状態が肝硬変です。
肝硬変の原因は、肝炎を起こすウイルス(B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなど)の感染、多量かつ長期間の飲酒、過栄養、自己免疫疾患などさまざまです。これらの原因が引き起こす肝臓の慢性的な炎症(慢性肝炎)や肝臓への障害により肝臓の細胞が壊れます。壊れた部分を補うために、線維(たんぱく質)が蓄積していくと、肝臓に塊(結節)ができます。肝臓に結節の数が増えると肝臓が硬くなります(肝硬変) 。肝臓が硬くなると肝臓の中の血液が流れにくくなり、胃や腸、脾臓などから肝臓に栄養・血液を運ぶ血管(門脈)などの血管の流れが悪くなります2)

※自己免疫疾患:免疫は、本来体の中に入ってきた異物を攻撃して体の外に排除するように働いていますが、自己免疫疾患は免疫が自分の正常な細胞や臓器を攻撃する病気の総称です3)

1)元山宏行ほか. 消化器の臨床. 2018; 21: 152-8.

2)日本消化器病ガイドライン 患者さんとご家族のためのガイド 肝硬変
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/kankouhen.html (2020年6月閲覧)

3)病態と治療戦略がみえる 免疫・アレルギー疾患イラストレイテッド(編集 田中良哉)、羊土社、2013;P106-11.

PoPHは、PAHに対する治療を行うことにより症状の改善や病気の進行を抑えることが期待できるようになってきました。希望をもって、積極的に治療に向き合いましょう。

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